長崎大学経済学部の小論文では、時事的な経済テーマが頻出します。特に「キャッシュレス決済の普及」は、デジタル社会や金融政策など幅広い観点から論じられる重要テーマです。本記事では、過去の出題傾向を踏まえつつ、「キャッシュレス決済の普及」をテーマとした小論文の構成例・書き方のポイント・解答例を紹介します。論理的な展開の仕方や経済的視点の示し方を学び、合格レベルの小論文力を身につけましょう。
【大学入試小論文】長崎経済学部総合経済学科(後期試験2020年度)の小論文の解答例です。問題は、改題となっています。
【実際の問題】
『キャッシュレス・ビジョン』(経済産業省)から、8つの資料が用意されており、以下の問題
問1.図に基づいて、日本においてキャッシュレス決済が浸透していないと考えられる要因を説明せよ。〔200字〕
問2.図に基づいて、日本でキャッシュレス決済が浸透した場合のメリットとデメリットを説明せよ。〔400字〕
私達は、普段からキャッシュレス決済を利用している。しかし、世界的に見ると日本はキャッシュレス後進国と言われている。要因として、国民の強い現金崇拝が挙げられる。日本は治安がよく、また偽札などの心配もない。金融インフラも整っていることから、現金決済に不便がないのだ。また、お店側もキャッシュレス化によるランニングコストや決済手数料の負担といったデメリットや、入金の即時性といった現金決済のメリットが、現金決済を優先する理由となっている。このような現状を打破するために、キャッシュレス普及率向上策についてあなたの考えを述べなさい。
キャッシュレス決済の普及についてのポイント

普及の背景
- 技術の進歩:スマートフォンやICチップの発展により安全で手軽な決済が可能に。
- 政府の推進:政策によるキャッシュレス化の後押し(例:目標設定やポイント還元施策)。
- 社会的要請:人手不足対策、感染症対策としての非接触ニーズ、訪日外国人の利便性向上。
主なキャッシュレス手段
- クレジットカード(後払い、ポイント還元などのインセンティブ)
- デビットカード(即時決済で残高管理がしやすい)
- 電子マネー(交通系・流通系:Suica、PASMO、nanaco、WAON 等)
- QRコード決済(PayPay、LINE Pay、楽天ペイ 等、スマホアプリで簡便)
普及の現状と課題(日本)
- 普及率:都市部での浸透は進むが、全国平均ではまだ伸びしろがある。
- 地域格差:地方や小規模店舗では導入コストや通信環境の問題で遅れがち。
- 世代間格差:高齢者は操作やセキュリティへの不安から利用が進みにくい。
- 手数料負担:店舗側の決済手数料が導入の障壁になることがある。
メリット
- 消費者:
- 支払いが迅速、現金不要、ポイント還元などの利便性。
- 店舗:
- 売上管理の効率化、レジ業務の短縮、現金紛失リスクの低減。
- 社会全体:
- 現金流通コストの削減、取引データによる経済分析の高度化。
デメリット・リスク
- システム障害リスク:通信障害や決済システムの停止で支払い不可になる可能性。
- 個人情報・データ管理:取引データの漏洩や不正利用の懸念。
- デジタル格差:高齢者やIT不慣れ層の取り残されるリスク。
海外との比較
- 中国:QRコード決済が広く日常に定着(例:WeChat Pay、Alipay)。
- 韓国:キャッシュレス比率が高く、政府と民間の連携が進む。
- 北欧:現金使用率が低く、キャッシュレスが社会インフラに近い形で定着。
今後の展望
- デジタル通貨(CBDC)やマイナンバー連携など制度面での進展の可能性。
- キャッシュレス化とデータ活用を組み合わせた新サービス(購買分析・地域振興等)。
- 普及の鍵:高齢者・中小店舗向けの教育・支援、手数料負担の軽減、通信インフラ整備。
【ある人の例】長崎大学経済学部(後期2020年度)の小論文解答例
キャッシュレス化を推進するための政府補助の必要性
私は、今後日本社会におけるキャッシュレス決済比率を高めるためには、政府による積極的な補助金制度の導入が不可欠であると考える。現金決済が依然として主流である日本において、キャッシュレス化の推進は、防犯・効率化・経済活性化の観点から極めて重要な課題である。
まず、現金決済の多さは、日本特有の安全性の高さや現金志向の文化によるものである。しかし、少子高齢化が進む中で、現金管理に伴う人的コストやリスクは無視できない。例えば、店舗では釣銭の準備や現金の運搬に多くの時間と人手が割かれ、銀行側でも現金処理の負担が発生している。これらの非効率性を改善し、経済全体の生産性を向上させるためには、キャッシュレス化の一層の推進が求められる。
しかし現状では、消費者側の意識の壁が大きな障害となっている。特に高齢者層や地方居住者にとって、現金決済は長年の生活習慣に根付いており、キャッシュレス決済への切り替えには心理的抵抗がある。また、「現金で困らない」という感覚が依然として強く、新たな決済手段を導入するインセンティブが乏しい。したがって、政府が企業と連携し、キャッシュレス決済の利用者に対してポイント還元などの直接的な恩恵を提供することが有効である。このような政策によって、消費者が「得をする」実感を得られれば、自然とキャッシュレス利用への移行が進むと考えられる。
同時に、店舗側への支援も欠かせない。特に中小企業や個人商店の間では、キャッシュレス決済導入にかかる初期費用や決済手数料が大きな負担となっている。そのため、政府がシステム導入費や手数料の一部を補助する制度を設けることで、導入のハードルを大幅に下げることができる。さらに、キャッシュレス決済を導入する店舗が増えることで、顧客の利便性も向上し、地域経済全体に好循環が生まれると考えられる。補助金は単なる一時的支援ではなく、長期的な経済基盤の強化を目的とした「投資」として捉えるべきである。
以上のように、政府が消費者と店舗の双方に的確な補助を行うことで、キャッシュレス決済の普及は加速し、経済活動の効率化と安全性の向上が実現するであろう。キャッシュレス化は単なる決済手段の変化ではなく、日本社会の構造をより持続可能でスマートなものへと転換するための重要な一歩である。政府はこの流れを後押しする責任を果たすべきである。
【一般論】キャッシュレス決済が浸透した場合のメリットとデメリット

<メリット>
- 便利性向上:キャッシュレス決済は迅速で簡単なため、消費者にとって支払い手続きが便利になります。スマートフォンやカードを利用することで、荷物を軽減し、取引時間を短縮できます。
- トラッキングと分析:キャッシュレス決済は電子取引であるため、支出の履歴が記録されやすくなります。これにより、個人やビジネスは支出の傾向を把握し、予算管理がしやすくなります。
- セキュリティの向上:現金取引に比べて、キャッシュレス決済はセキュリティが向上しています。認証機能や暗号化技術などが導入され、取引の安全性が高まります。
- 経済効率化:キャッシュレス決済は紙幣や硬貨の流通を削減し、銀行取引や会計処理が効率的になります。これが経済全体の効率向上につながる可能性があります。
<デメリット>
- デジタル格差:キャッシュレス社会に移行する際、デジタル機器へのアクセスやデジタルリテラシーの低い層が取り残される可能性があります。これにより、社会的格差が拡大する恐れがあります。
- プライバシー懸念:キャッシュレス決済は消費者の取引データを生成します。この情報の管理が不十分であれば、プライバシーの侵害が発生する可能性があります。
- サイバーセキュリティリスク:キャッシュレス取引はハッキングや不正アクセスの標的となり得ます。セキュリティ対策が不十分な場合、データが漏洩するリスクが生じます。
- 機器障害への脆弱性:キャッシュレス決済は電子機器に依存しており、システム障害や停電などにより取引が不可能になるリスクがあります。
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