【高校倫理】青年期の課題についてまとめています。
青年期の発達課題
人間がその一生の各段階で達成すべきものとされる課題を発達課題という。 青年期に必要な発達課題については、たとえば次のような説がある。 1
オルポートの説
アメリカの心理学者オルポート(1897~1967)は、「成熟した パーソナリティ」の特徴として、次の6つをあげている。
- 自己の内的な世界だけではなく、社会的領域へ自己意識を拡大している。
- 他者を尊重し、自己と他者との間に温かい関係を築くことができる。
- 情緒的に安定し、自己を受容することができる。
- 現実を正しく知覚し、課題の解決に必要な技能と、没頭できる仕事を持つ。
- 自己を客観視することができ、洞察とユーモアの能力を持つ。
- 統一的な人生観・人生哲学を確立する。
ハヴィガーストの説
アメリカの教育学者ハヴィガースト(1900~91)は、発達段階ごとに発達課題を提示した。ハヴィガーストによる青年期の発達課題は、次の10つ。
- 自己の身体的変化を受け入れ、それを有効に使うこと。 2
- 男性または女性としての社会的役割を学ぶこと。
- 同年代の男女と洗練された新しい関係を結ぶこと。
- 両親や他の大人たちから、情緒的に自立すること。
- 経済的独立についての自信をつけること。
- 職業を選択し、その職業につく準備をすること。
- 結婚や家庭生活のための準備をすること。
- 市民として必要な知識や技能、考え方を身につけていくこと。
- 行動の指針となる価値や倫理の体系を学ぶこと。
- 社会的に責任ある行動をとろうと求め、それを成しとげること。
エリクソンによる青年期の考察
ドイツ生まれのアメリカの精神分析学者エリクソン(1902~94)によれば、青年期の主な発達課題はアイデンティティの確立である。アイデンティティは、自我同一性・自己同一性または主体性などと訳される。アイデンティティは、次の3点の自覚から成り立っていると考えられる。
アイデンティティの3要素
- どんな状況でも自己は他者と異なる独自の存在である(自己斉一性)。
- 過去も現在も、自分は一貫した同一の存在である (時間的連続性)。
- 社会に帰属して他者から の承認を受け、「自分は 何者か」ということについて、自分自身が持つ観念と、他者が持つ観念と が一致している。
アイデンティティの危機
子どもから大人への過渡期である青年期には、「自分は何者か」ということが分からなくなりやすく、周囲の考えとの間にも溝を感じて、強い不安や葛藤が生じやすい。こうした状態を、エリクソンはアイデン ティティの危機(アイデンティティ拡散)とよんだ。
ライフサイクル
エリクソンは、人の一生を8つの発達段階を持つライフサイクル(人生周期)ととらえ、人間は各段階の発達課題を達成しながら自己を実現していくと考えた。
青年期の特質
青年期の特質には、
- 身体的発達(第二次性徴)
- 心理的発達(自我の目覚め)
- 社会的発達(第二反抗期)
それぞれの発達段階で、特質・特徴があります。
身体的発達
一般に12~13歳頃から青年期に入るとされている。この頃になると身長や体重の急激な増加とともに、第二次性徴があらわれ、男性らしい、あるいは女性らしい身体的・生理的特徴が著しくなってくる。
心理的発達
青年期には、自己を他人や外の世界から明確に区別された独自の存在としてはっきり自覚するようになり、自我の目覚めがみられる。それは、疾風怒濤期ともよばれる、心理的に不安定な時期でもある。
社会的発達
自我に目覚めてきた青年は、親の保護や監督から精神的に自立しようとし、心理的離乳の時期をむかえる。また、自立への欲求の高まりとともに、親や教師などに対し拒否的・反抗的な態度をとるようにもなり、第二反抗期があらわれる。
第二の誕生
ルソーは『エミール』の中で、母親からの生物的な誕生を第一の誕生とすれば、人間はこれまでに記述したような著しい発達をとげる青年期に二度目の精神的な誕生を経験するとして、これを第二の誕生と呼んだ。
マージナル=マン
ドイツ出身のアメリカの心理学者であるレヴィン(1890年から1947年没) は、青年期の特徴を次のようにとらえた。
青年期は子どもの世界から抜け出して大人の世界に足を踏み入れる移行期にあたり、青年は子どもの集団と大人の集団とのどちらから見ても「周辺・へり」 (margin)にいて、両集団にまたがる存在である。あるときは「まだ子ども」と見られ、別のときは「もう大人」として見られる。この意味で青年を、マージナル=マン(境界人・周辺人)と呼ぶことができるという。このように青年期は心理的に動揺し、不安定な状態に置かれることの多い時期ではあるが、その中に未来へとつながる青年期特有の意義と課題があると見ることができる。
児童期
中世ヨーロッパには、今日のような意味で「子ども」という存在は記されていなかった。中世末期から17世紀頃にかけて、今日のような意味での「子ども」の観念が生まれていった。18世紀中頃になって、フランスのルシーは『エミール』を著し、子どもについてもっとよく知るべきだと説いた。こうした流れから、子どもについての研究が盛んになった。
青年期
青年期は、子どもから大人へと移行していく過渡期にあたる重要な時期である。しかし、近代の産業革命以前の社会では、子どもは貴重な労働力であり、一般に子どもは一定の通過儀礼(イニシエーション)をへてすぐに大人 とみなされた。そのため、今日のような意味での青年期は存在しなかった。青年期は、産業革命の頃に、労働者を育成するため就学期間が長くなったことから、人間の発達段階の1つとして認識されている。
青年期のあり方
青年期の存在やそのあり方は、決して普遍的なものではなく、文化や社会によって大きく異なってくる。
青年期の延長
産業革命後に認識されるようになった青年期は、20世紀に入ってからだんだん長期化してきた。
<原因>
- 栄養状態が良くなり、身 体の発育が早期化したこと
- 産業の高度化とともに学ぶべき知識・技術が増え、就学期間が延びたこと
- 経済的に豊かになり社会に余裕が生まれ、すぐに就労する必要が低下したこと
の3点があげられる。
モラトリアム
エリクソンは、長期化している現代の青年期のあり方 を、モラトリアム(猶予期間)という語で表した。現代における青年期は、労働や家庭を守るなど大人としての義務や責任を課せられない猶予期間で、その間にさまざまな試行錯誤による役割実験によって自分の可能性を探り、アイ デンティティの確立をめざすことが大きな課題であるとした。
モラトリアム批判
なかなかアイデンティティを確立できず、決定的な人生の選択を回避して、モラトリアムの状態にできるだけ長く留まってい いと考える若者も増えてきた。こうしたことへの批判として、モラトリアム人間やピーターパン=シンドロームなどの言葉が生まれた。
「30歳成人説」が説かれ、定職につかずアルバイトを続けるフリーターや、 学校にも行かず職業にも就こうとしないニートとよばれる若者も増えている。
若者文化(ユースカルチャー)
対抗文化・下位文化
ファッションや音楽、漫画やアニメ、ゲームなどに見ら れる若者文化(ユースカルチャー・青年文化)は、大人の文化(支配文化・体制文化)に対して、それを否定する対抗文化(カウンターカルチャー)という側面を持つ。また、社会の全体的な主流の文化に対して、独自の行動様式や価値観を示す下位文化(サブカルチャー)という側面も持っている。
文化志向から関係性志向へ
今日においては、若者に固有の文化を見いだすこ とは難しくなってきている。そうしたなかで、身近な友人や恋人などとの「純粋な関係性」の重視が、現代の若者の特質だともいわれている。
戦後日本社会の世代論
団塊の世代
狭義には 1947~49年生まれの、第一次ベビーブーム世代を指す。戦後日本の高度成長とともに、大量の商品需要や労働力を生み出した。政治に関心 を持ち、全共闘などの学生運動を組織して大学闘争を行ったが、その敗退は対抗文化としての若者文化の敗退をも意味していた。
シラケ世代
1950年代後半に生まれ、1970年代中~後期に青年期を送った世代。高度成長期は終わり、学生運動は下火となり、いわゆる三無主義(無気力・無関心・無責任)の雰囲気におおわれた。
新人類世代
1960年代前半に生まれ、1980年代に青年期を送った世代。消費社会が高度に進展する中で、個人的な消費を通じて他者との違いを示し、それをアイデンティティとしたり自己実現の手段としたりする風潮が広がった。
団塊ジュニア世代
1970年代前半ごろに生まれた団塊の世代の子どもの世代。この世代のころから、特定の関心分野(特にアニメやゲームなどのサブカルチャー) だけに没頭する、オタクとよばれる若者のあり方も批判的に語られるようになった。この世代が就職活動を始めたころにはバブル経済は崩壊しており、「失われた10年」の間に大人になったことからロスト=ジェネレーションなどと呼ばれ、フリーターや派遣労働などの不安定労働者になる者が増加した。
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